法律

ストーカー規制法改正

2021年(令和3年)5月18日,衆議院本会議で,改正ストーカー規制法が可決,成立しました。
今回の改正では,GPS機器を用いた位置情報の取得などの規制対象の行為が拡大されました。

ストーカ規制法上,「ストーカー行為」とは,

a 特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足す る目的で
b   当該特定の者,又は,その配偶者,直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対して

c 「つきまとい等」を反復してすること

をいいます。

「つきまとい等」とは,以下の①から⑧の行為です。

①つきまとい,待ち伏せし,進路に立ちふさがり,住居,勤務先,学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし,住居等に押し掛け,又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。
②その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
③面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
④著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
⑤電話をかけて何も告げず,又は拒まれたにもかかわらず,連続して,電話をかけ,ファクシミリ送信し,電子メールの送信等(SNSのメッセージ,被害者の開設するブログやホームページへの書き込み等も含む)をすること。
⑥汚物,動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し,又はその知り得る状態に置くこと。

⑦名誉を害する事項を告げ,又はその知り得る状態に置くこと。
⑧性的羞恥心を害する事項を告げること,もしくはその知り得る状態に置き,その性的羞恥心を害する文書,図画,DVD等を送付し,もしくはその知り得る状態に置き,又はその性的羞恥心を害するDVD等を送信し,もしくはその知り得る状態に置くこと。

ただし,①から④,⑤のうち電子メールの送信等については,身体の安全,住居等の平穏もしくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限られます。

今回の改正では,①の見張り行為について,住居,勤務先,学校その他その通常所在する場所に,「実際にいる場所」が加えられました。
例えば,たまたま立ち寄った店や旅行先のホテルなどが考えられます。

⑤の電話,ファックス,電子メール,SNSメッセージに加えて,「拒まれたにもかかわらず,連続して,文書を送る行為」が加えられました。
例えば,自宅や勤務先に毎日手紙を送ること,自宅の郵便受けに直接手紙を投函することが考えられます。手紙に限らず,白紙でも写真でも封筒だけでも「文書」に含まれる運用がされると考えられます(下記の検討報告書参照)。

これらは,2021年6月15日より施行されます。

また,aの目的で,bの対象者に対して,承諾なく,位置情報記録・送信装置(GPS機器等)を用いた位置情報の取得すること(無承諾取得),承諾なく,所持する物にGPS機器等を取り付ける行為(無承諾取付)もストーカー行為として規制されることになりました。

 例えば,自動車にGPS機器を取り付けること,取り付けたGPS機器の位置情報を取得することだけでなく,アプリをインストールすることにより位置情報を取得することも含むとする運用がされると考えられます(下記の検討報告書参照)。

これは,2021年8月26日より施行されます。

上記の行為は,反復して行わない場合でも,「警告」「禁止命令」等の対象となります。
ストーカー行為が反復して行われた場合には,1年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。
禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合,2年以下の懲役又は200万円以下の罰金になります。

なお,禁止命令は,書類を送達しなければなりませんが,住所及び居所が明らかでない場合には, 公示送達をすることができることになりました。

令和2年7月30日,GPS機器等を用いて相手方の動静を観察する行為が,ストーカー規制法のストーカー行為に当たらないという最高裁判所の判決が出されたために,改正されました。
この改正のために,令和2年10月から令和3年1月までの間,警察庁に有識者検討会議が設置され,検討報告書が作成されました。これは警察庁のホームページで見ることができます。

今回の改正では,参議院で,怨恨の感情等に基づくストーカー事案など本法に抵触しない動機に基づくものであっても,必要な対策を検討することの附帯決議がされました。
恋愛感情その他の好意の感情に基づかないストーカー行為は,ストーカー規制法の対象にならないため,これを問題視するものです。