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法律

DV防止法の改正

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(いわゆるDV防止法)が改正され、2024(令和6)年4月1日から施行されます。

2023(令和5)年5月12日に成立し、同年5月19日に公布されたものです。

1 精神的被害にも裁判所が接近禁止命令等を出せるようになりました。

精神的被害にも裁判所が接近禁止命令等を出せるようになったとはどういうことなのでしょうか。

(1)DV防止法の保護命令とは

そもそも、DV防止法の保護命令には何があるのでしょうか。

DV防止法の保護命令には、①被害者への接近禁止命令、②被害者への電話等禁止命令、③被害者の子への接近禁止命令、④被害者の子への電話等禁止命令(今回の改正で創設)、⑤被害者の親族等への接近禁止命令、⑥退去等命令があります。

なお、①の被害者への接近禁止命令が認められないと、②から⑤の命令は認められません。

また、申立ての相手方の「配偶者」とは、①法律婚の相手方、②事実婚の相手方、③生活の本拠を共にする交際相手です。離婚等の前に暴力等を受け、離婚等も引き続き暴力等を受ける場合は、元①~③も含みます。

男性の被害者も保護命令の申立てをすることができます。

今回の改正法の審議の際、衆参両院の内閣委員会において「保護命令において同性カップルも対象となった例がある旨を周知徹底すること」と附帯決議されました。DV防止法において同性カップル間の暴力についても対象となることが明確になりました。

今回の改正で、接近禁止命令等の期間が6か月から1年間に伸長されました。

また、保護命令違反の罰則が、「1年以下の懲役又は百万円以下の罰金」から「2年以下の懲役又は2百万円以下の罰金」に引き上げられました。

(2)申立てをすることができる被害者の範囲が拡大された

接近禁止命令等の申立てをすることができる被害者は、配偶者からの①身体に対する暴力、②被害者の生命又は身体に対し害を加える旨を告知してする脅迫を受けた被害者に限られていました。

これに、「自由、名誉、財産に対し害を加える旨を告知してする脅迫を受けた者」が追加されました。

つまり、脅迫の内容に、自由、名誉、財産が加えられたのです。

DV防止法制定当初(2001(平成13)年成立)は、「身体に対する暴力」を受けた被害者に限られていました。2007(平成19)年の改正で、生命又は身体に対する脅迫を受けた被害者も申立てができるとされました。今回で、2度目の拡大です。

(3)自由、名誉、財産に対する脅迫とは

では、自由に対する脅迫とはどのようなものでしょうか。例えば、部屋に閉じ込め、外出しようとすると怒鳴る、土下座を強制する、従わなければ仕事を辞めさせると告げるなどです。性的自由に対して害を加える旨の告知もあてはまると考えられます。

名誉に対する脅迫とは、性的な画像を広く流布させると告げる、悪評をネットに流して攻撃すると告げるなどです。

財産に対する脅迫は、キャッシュカードや通帳を取り上げると告げるなどです。

また、害悪の内容は、一般に人に恐怖心を生じさせる程度のものであることが必要です。その判断に当たっては、害悪の告知に至る経緯、加害者と被害者との関係、被害者の心理状況などの個別的事情も考慮されることになると考えられます。

告知の方法は、言葉、態度・動作、暗示的方法や他人を介し間接的に告げる方法も含まれます。

立証方法としては、脅迫されている場面の録音や録画、メールやLINE等が考えられます。

(4)接近禁止命令等の発令要件が拡大された

今までは、接近禁止命令等の要件は「更なる身体に対する暴力により生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」、すなわち、殺人、傷害等の被害を受けるおそれがある状況に限られていました。この要件により保護命令が発せられる場合が極めて限定され、被害者保護が十分に図られていないと指摘されていました。

そこで、今回の改正では、「更なる身体に対する暴力又は生命・身体・自由等に対する脅迫により心身に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」に拡大されました。

つまり、重大な危害を受けるおそれを生じさせる加害者の行為に「脅迫」が追加され、「心(精神)」に重大な危害を受けるおそれが大きいときも要件を満たすことになりました。

(5)重大な危害とは

「重大な危害」とは、少なくとも通院加療を要する程度の危害と考えられています。「心(精神)」への重大な危害としては、うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、適応障害、不安障害、身体化障害が考えられます。

つまり、これらうつ病等の通院加療を要する症状が既に出ている場合で、配偶者からの更なる身体に対する暴力又は生命・身体・自由等に対する脅迫を受けるおそれがある場合には、「その生命又は心身に重大な危害を受けるおそれが大きい」と認められる可能性が高いと考えられます。

立証方法としては、医師の診断書が考えられます。

2 電話等禁止命令の対象行為の拡大

(1)被害者への電話等禁止命令の対象行為の拡大

被害者への電話等禁止命令の対象行為に、緊急やむを得ない場合を除き、連続して文書を送付し、又はSNS等により通信文等を送信すること、性的羞恥心を害する電磁的記録を送信すること、被害者の承諾を得ないで位置情報記録・送信装置(すなわちGPS)によりその位置情報を取得すること等が追加されました。

今までは、無言電話、緊急時以外の連続した電話、ファクシミリ、電子メールのみでした。これは当然の改正ですね。

(2)被害者と同居する未成年の子への電話等禁止命令の創設

被害者と同居する未成年の子への接近禁止命令の要件を満たす場合について、被害者と同居する未成年の子に対して、緊急やむを得ない場合を除き、連続して電話をかけること等を禁止する命令が創設されました。

今までは接近禁止命令のみでしたが、子どもが携帯電話を持つことが多くなったために設けられた規定でしょうね。

でも、未成年の子だけなんですね。成人している子や親族に対する電話等禁止命令は設けられませんでした。

3 退去等命令

退去等命令について、建物等の所有者又は賃借人が被害者のみである場合に限り、2か月から6か月とする特則が設けられました。

ただし、退去等命令の申立てをすることができる被害者の範囲及び要件については、接近禁止命令等とは異なり、改正されませんでしたので、精神的被害の場合は認められません。

DVの被害にあったという方や離婚を考えている方は、当事務所にご相談ください。